雑誌「ぴあ」の表紙を描き続けたイラストレーター・及川正通さんの個展が横須賀美術館で開催されており、ライフワークとして取り組んでいる街シリーズの第1作「YOKOSUKA」が公開され、話題を呼んでいる。
同展では「ヨコスカ-TOKYO-ぴあ 及川正通イラストレーションの世界」と題して、及川さんが36年間描き続けた「ぴあ」表紙約200点の原画を展示するほか、「さいか屋横須賀店」時代にデザインした包装紙・歳時ポスターなども初披露。
新作「ドリームMAP1 YOKOSUKA」は、及川さんが10代~20代に過ごした横須賀の街のイメージを描いた作品。アメリカンなドブ板通りのマリリン・モンロー、米軍基地の空母甲板上で歌うプレスリー、地元出身の山口百恵さんなど、街の表情や人物を描いたカラフルなもので、横3メートル・縦2メートルという大作イラスト。
及川さんは「思い出を含めて虚実入り混ぜて描いたもの。明暗のある街だが自分が思う理想のヨコスカを表現した」という。イラスト地図の合間には、「秘密にしていたデートスポット」「ヒカルちゃんと別れたナミダ坂」「サチコちゃんと泳いだ猿島」「裕次郎の映画を観て裕次郎になりきった横須賀日活映画」など、ローマ字で記された細かい書き込みも。
1939年に中国・大連生まれた及川さんは、終戦後に横須賀へ。1955年、16歳で横須賀のデパート「さいか屋」にデザイナーとして勤務する傍ら創作活動を始める。1963年「SOUL OF NEGRO」で日宣美展入選。主婦と生活社に4年間勤務した後、1968年に横尾忠則さんと出会い「ジ・エンドスタジオ」を立ち上げた。雑誌連載や劇団天井桟敷の公演ポスター・舞台美術などを手掛け、1975年より「ぴあ」表紙イラストを担当。2011年に休刊するまで36年間休むことなく描き続け、ギネス世界記録にも認定された。
青春期を横須賀で過ごした及川さんは、「さいか屋時代にデザインの基礎を学び、そこで育てられた」と懐かしむ。横尾さんとの出会いに刺激されて独立。横尾さんが日本の土着的な作風で世に知られるようになった頃、及川さんは「自分の原点は何かと模索していた」という。ロシア人が多かった大連、アメリカ文化が流入した横須賀で育ち、そこで体験した「バタ臭さ」がデフォルメされ、ぴあ表紙に代表される「人物イラストの作風が生まれ、自分の立地点ができた」と振り返る。
個展では、池上中学時代に描いた人物画、劇画作品、演劇ポスターなど青春時代の作品も展示するなど、及川デザインの歩みを紹介する。「横須賀には運命的なものを感じている。どぶ板通りでプレスリーをまねてギター演奏で小遣いを稼いだこと、店のマッチや内装デザインのアルバイトをしたことも役立っている」とも。
ゆかりのある街の風景にこれまで描いてきた人物を重ねて描くことで、「街をより生き生きと描きたい」と及川さん。「見る人のストーリーと重ね合わせて、街シリーズのイラストを観賞してもらえたら面白いと思う」と及川さんは話している。
同展は12月16日まで。開館時間は10時~18時。毎月第1月曜休館。観覧料は一般300円、中学生以下・市内在住在学の高校生は無料。