横須賀で最後のギター流しといわれる「カズ」さんは、愛用の12弦ギターを抱え横須賀中央周辺のスナック・居酒屋を回って演奏して歩く。昭和レトロな街並みが注目される中、数少なくなった流しのギタリストが話題を呼んでいる。
横須賀に来て46年になるというカズさん。店に入ると「あなたの顔を見て歌います」と口上を述べながら、客のリクエストに応えて12弦ギターを弾き、得意の演歌を披露する。レパートリーは昭和初期の演歌を中心に現代歌謡まで。黒いスーツに赤いシャツの正装が夜の街に似合う。
米軍基地がある青森県三沢市の生まれで、今年65歳。高校を中退して演歌の道に入ったという。若い頃は師匠について全国各地を回り、流しのギタリスト修業に励んだ。流れ流れて故郷と同じ匂いがする基地の街・横須賀に住み着いた。
カズさんのギター演奏には、自らの人生に演歌の歌詞が重なるような哀愁が漂う。話し口調も講談調で、しゃべりの合間に12弦ギターを弾いて1曲歌う。「この街は人の絆で持ちつ持たれつ…」「歌は世に連れ人に連れ…」。夜が更けるとともに「カズさん節」がますますさえてくる。
カラオケのない時代には、バイオリン・アコーディオン・ギターの3人1組で、横須賀中央の酒場を練り歩き、客の歌の伴奏をしたという。伊豆の温泉街へ出張したり、山形・新潟のスキー場へ呼ばれたことも。そんなギター流しも、横須賀ではカズさんただ1人となった。
「同じ東北人として、いつか東北の被災地へも出かけて演奏したい」とも。昼は老人ホームをボランティア訪問して、懐かしい演歌や童謡を演奏してお年寄りを励ましている。
5月24日~26日、昭和レトロな街並みが残る若松マーケット(同市若松町3)で、街の活性化を目指したご当地カクテル「横須賀ブラジャー」をPRする「横須賀ブラジャー祭り」が開催される。名物ギター流しとしてカズさんも友情出演し、同祭りを応援する。
カズさんは「若松町のベテランママさんたちに育てられた。少しでも恩返しができれば」と話す。昭和歌謡で街の人たちにエールを送る。